業務上のストレスや過労で精神障害を起こしたり、自殺にまで至るケースが近年増加しています。これについて、判断指針(H11.9.14基発第544号)が発表されています。以下は、その概要です。
心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針
業務上外の判断の基本的考え方
精神障害等について、業務上外の判断要件は、
- 分裂病、妄想病、うつ病、対人恐怖症などの精神障害を発病していること
- 発病前おおむね6カ月の間に業務による強いストレス(心理的負荷)があった
- 業務以外のストレスや個人的な事情で精神障害を発病したとは認められない(精神障害やアルコール依存症の既往症がないなど)
の3つです。これらの3つともに当たる精神障害が業務上の疾病として認められます。
職場におけるストレス強度の評価
判断要件にある「発病前おおむね6カ月の間の業務による強いストレス」は、
- 原因となった出来事
- その出来事に伴う変化等
について、「職場における心理的負荷評価表」によって判断します。この評価表には、以下の項目があります。
- 大きな病気や怪我をした
- 悲惨な事故や災害を体験した
- 交通事故を起こした
- 労災の発生に直接関与した
- 重大な仕事上のミスをした
- 事故の責任を問われた
- ノルマ未達成
- 新規事業や再建担当になった
- 顧客とトラブルがあった
- 仕事内容・量の大きな変化があった
- 勤務・拘束時間が長時間化した
- 勤務形態に変化があった
- 仕事のペース、活動に変化があった
- 職場のOA化が進んだ
- 退職を強要された
- 出向した
- 左遷された
- 不利益扱いを受けた
- 転勤した
- 配置転換があった
- 自分の昇格・昇進があった
- 部下が減った
- 部下が増えた
- セクハラを受けた
- 上司とトラブルがあった
- 同僚とトラブルがあった
- 部下とトラブルがあった
- 理解者が異動した
- 上司が変わった
- 昇進で先を越された
- 同僚の昇進・昇格があった
職場以外のストレス強度の評価
次に「職場以外の心理的負荷評価表」によって、ストレスの度合を確認します。また、
- 精神障害の既往歴
- 生活史(社会適応状況)
- アルコール等依存状況
- 性格傾向
についても、検討します。
具体的判断
以上を総合的に、業務起因性があるかどうか判断しますが、具体的には次のとおりです。
- 業務以外には心理的負荷も個体的要因も特段認められない場合で、業務による心理的負荷が総合評価「強」と認められるときは、業務起因性があると判断する。
- 業務以外の心理的負荷や、個体的要因が特段認められる場合は、業務による心理的負荷の総合評価「強」であっても、それぞれの要因を細かく検討して総合判断する。
なお、業務以外の心理的負荷や個体的要因が精神障害を発病させる有力な原因であると認められる場合を除き、業務上と判断する。
精神障害による自殺の取扱い
業務上の心理的負荷によって精神障害を発病したと認められる者が自殺した場合、原則として、業務起因性が認められます。
業務上の精神障害によって、正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、又は自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたと認められる場合には、結果の発生を意図した故意には該当しない。(H11.9.14基発545号)
従来、精神障害による自殺については、故意によるものとされ、労災保険給付の対象外とされていましたが、上記通達により、労災と取扱われるようになりました。
(2005.9.5)